金田一耕助の事件簿064
昭和の時代の最先端のいかがわしさ
「壺中美人」（横溝正史）
（「壺中美人」）角川文庫
画家がアトリエで
何者かに刺殺される。
使用人は血まみれのナイフを
握りしめた女が、
体をくねらせて壺の中に
入っていこうとしているのを
目撃したという。
現場には曲芸に使用される
大きな壺が。
捜査線上には曲芸師の親娘が…。
横溝正史
没後40年＆生誕120年記念として
復刊された角川文庫の
金田一耕助シリーズの一冊です。
昭和の時代のものを
所有しているのですが、
ついつい買ってしまいました。
この作品は表紙の画が気色悪く、
内容も薄気味悪い記憶が残っていて、
再読などしたくもないと思いながら、
ついつい読んでしまいました。
【事件簿File-064｢壺中美人｣】
〔事件発生〕
昭和29年5月26日(東京･成城)
※日付の記載が明確になされているが、
捜査関係者と金田一の関わりが
｢支那扇の女｣事件(S32)
以降のものであり、矛盾がある
〔依頼人〕
該当なし
※等々力警部から捜査協力を依頼される
〔捜査関係者〕
山川警部補…成城警察署の捜査主任。
志村刑事･三浦刑事･柴田刑事
…成城警察署の刑事。
川崎巡査
…成城警察署巡査。
警邏中、女に刺される。
新井刑事…警視庁捜査一課刑事。
等々力警部…警視庁捜査一課警部。
〔事件関係者〕
井川謙造
…アトリエで殺された画家。
サディスト。陶器の蒐集家。
井川虎之助
…謙造の兄。
謙造に金の融通を頼んでいた。
井川治子
…謙造の最初の妻。故人。
井川マリ子
…謙造の二番目の妻。
別居していて離婚訴訟中。
梶原譲次
…元ボクサー。ブルドッグという綽名。
鈴木隆介
…北川法律事務所弁護士。
宮武たけ
…井川家使用人。品のいい女性。
宮武敬一
…たけの息子。
楊祭典
…曲芸師。華嬢の養父、実は夫婦。
楊華嬢
…壺中美人の曲技師。戦災孤児。
楊祭典に拾われた。
本作品の味わいどころ①
ミステリアス！壺に入る美人
タイトルの｢壺中美人｣が作品の
妖しげな雰囲気を醸し出しています。
くねくねと体をうねらせて
チャイナドレスをまとった美少女が
壺に入る。なんとも
エキゾチックでエロティックです。
しかし、それが
どのように殺人事件に絡むのか。
もしかしたら業者から購入した壺の中に
殺人鬼の美少女が潜んでいて、
被害者の気づかぬうちに
壺からくねくねと抜け出してきて
グサリと一突き！などと
ついつい想像してしまいます。
果たして…。
本作品の味わいどころ②
当時最先端のいかがわしさ
同性愛やら女装趣味やら、
現代であれば理解が進み、
それほど違和感を感じないでしょう
(理解が進んでいなくとも、
露骨に嫌悪感を示す人は
少ないでしょう)。
しかし本作品の発表は1960年。
まだまだそうしたものを
受け入れる余地など
当時の世の中にはなかったはずです。
不倫、SM、男色、女装、
親子に見せかけた年齢差夫婦等、
当時最先端のいかがわしさを
満載しているのです。
本作品の味わいどころ③
金田一を気づかう等々力警部
妖しげな雰囲気の
色濃く漂う本作品ですが、
救いは等々力警部にあります。
冒頭から金田一の孤独を理解し、
年下の名探偵に寄り添う姿勢には
美しいものが感じられます。
「金田一耕助を囲繞する雰囲気に、
救いようのない孤独の影を感じて、
なんともいえぬ、
いたましさにうたれることがある」。
だから時折金田一の一室を訪問し、
「のんびりとお茶をのみながら、
世間話に時間をすごす」のです。
この金田一の｢孤独の影｣が、
｢病院坂の首縊りの家｣事件解決後の
渡米･失踪に
つながってくるのでしょう。
何はともあれ、
復刊はめでたいことです。
昭和の時代の最先端のいかがわしさ、
味わってみませんか
(｢いらん！｣と叱られそうですが)。
（2022.3.25）
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